今年も、お帰りなさい。
「ああ、もうこの季節が巡ってきたんだ」
ふと、見上げて、そう思う。
桜の季節でしょう?
お花見シーズンでしょう?
いや、ちがう。
そうだけれども、そうじゃない。
私が住んでいる海に近い街では、桜といえば、入学式のころに咲く「ソメイヨシノ」ではない。2月の終わりごろからツボミを綻ばせる「河津桜」という、早咲きの桜が主流だ。
4月にもなれば、すっかりと青々とした若葉が生茂っている。
だけど。
4月の上旬になると、「この季節がやってきた」と思う出来事がある。
そうだ。
彼らが帰ってきたのだ、この街に。
彼らの姿を見かけると、何だかいつもホッとする。ついつい、彼らの姿を目で追っていることにも気がついた。
それは多分、私だけじゃない。
私の住む街の人たちは、彼らが戻ってきてくれることを、待ちわびている。
「今年も、彼らが戻ってきてくれるといいですね」
駅前のコンビニの店員さんと、そんなささやかな会話を交わす。
彼らの姿を、
彼らの声を聞きたいと、
冬の間はいつも願う。
彼らの声を、聞いたことがない人も多いかもしれない。
姿は見たことあるよ?
いつも、オシャレにキメてるよね。
でも、声は聞いたことないなぁ。
いつも、スイッと風のように通り過ぎていくでしょう?
彼らの話題を口にすると、多くの人が、決まってそう言う。
だけど、私は、彼らの声を知っている。
何に例えるといいだろう?
似たような音の楽器は、ちょっと見たあらないかもしれない。
いや、無知な私が知らないだけかもしれないけれど。
私がぴったりだと思うのは、
「世界のネジを巻く鳥の声」
村上春樹さんの「ねじまき鳥クロニクル」に出てくる、鳥の声。
ギイイイッと、世界のネジを巻くような音出してなくのだと、物語のなかに出てくるのだ。
どんな鳥を想定されて、物語を書かれたのかはわからない。
けれど、私にとっては彼らこそ、ねじまき鳥かもしれない。
私に春の訪れを告げて、季節のネジをひとつ巻いてくれる鳥。
ツバメ。
今年も、お帰りなさい。
私が住む街に、帰ってきてくれて、ありがとう。