今年買って良かった本「蜜蜂と遠雷」
この本、もっと早くに読めばよかったな……。
これが、読み終えたときの感想だった。
私が読んでいる本にはかなり偏りがあるし、
正直なところ、一週間に一冊ほどしか本を読まない、というレベルである。
ただ、シリーズもので、めちゃくちゃハマると、わき目も振らずにグイグイ読むこともある。勧められて読み始めた森博嗣さんの「Vシリーズ」は、今年の10月に、一気に10冊を読みふけった。
今年は、村上春樹さんの「騎士団長殺し」、宮部みゆきさんの「この世の春」、吉本ばななさんの「吹上奇譚」とが発売された。
好きな作家は誰ですか? と質問されたときにこの三名の名前を挙げる私にとってはかない実り多き一年だった。夜寝る間も惜しんで、この三冊(騎士団長殺しも、この世の春も二冊あるので、正確には五冊となるのだろうか?)を読んだ。
しかし、今回紹介する本は2016年に発売されているので、2017年の新刊、ではない。
けれど、今年の話題作であったことには間違いないと思う。
「文句なしの最高傑作」というコピーがついているけれど、本当にその通りだろう。
私がこの本を購入したのは、2017年のお正月だった。1月の連休にでも読むか、と軽い気持ちで購入した。そのため「今年買ってよかったもの」として紹介したいと思う。本の帯には「直木賞候補作!」と書かれていた。
「すっごく面白い」「絶対読んでほしい」と、私の周りにいた人たちは、発売してすぐに教えてくれたけれど、私は「うーん、どうしようかなあ」と読むことすら悩んでいた。文庫本になったら買えばいいかな? とも考えていた。
恥ずかしながら告白するけれど、私はこれまでに恩田陸さんの書かれた小説を一度も読んだことがなかった。
「六番目の小夜子」や「夜のピクニック」など、本のタイトルは知っているけれど、なぜか「読んでみよう」という気にはならなかった。
私の読書傾向は、同じ本ばかりを繰り返し繰り返し……。本当にひたすら繰り返し読むことが多い。けれど、いろいろな作家さんの作品を読んで「こういった書き方もできるのか」とか、「こういう目線、すばらしいな」など新たな作家さんの文体を知りたいと思い、購入したのだった。
しかし、1月に購入しておきながら、全然読めずにいた。
なんとなく「積読」の部類に入ってしまっていたこの本だったけれど、ようやく11月になり手に取ることができた。
ピアノコンクールを舞台とした人間の生き様について。
ひとことだけで表すなら、これだろう。
けれど、こんなひとことで言い表すことなんて、到底できないほど、濃密な体験だった。
私は、この小説の中で奏でられている音楽については、ほぼすべて知らない。
どんな曲か、タイトルだけを聞いても分からないのだ。
だけど、読んでいる文字だけでも音が聞こえてきそうだ。
演奏が始まったとたんに、鳥肌が立つような感覚すら生まれたほどだった。
ちょっと大げさなように思うかもしれない。
けれど、これは私がこの「蜜蜂と遠雷」を読んで体験した、まぎれもない事実だ。
そして、私以外の多くの人が同じような感覚をうけたからこそ、
年末年始、なんか一冊本でも読むか、と思っていて
まだ、この「蜜蜂と遠雷」を読んでいない方には、
ぜひとも、手に取ってほしい。
1944円でピアノリサイタルに出かけた気分になり、
清々しい気持ちになれるだろう。