ひろこの睡眠学習帖

寝言のようなことばかり言っています。

一本道だったのに。

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今週のお題「ちょっとコワい話」

15年ほど前のこと。

私は大学一年生のときに体験した、ちょっと不思議な話だ。

 

はじめてのテストも無事に終わって、さあこれから夏休みだーー! と否が応でも盛り上がっていた。

 

サークルに入っていた私は、夏の合宿にもちろん参加した。場所は、なぜか、はっきりとは覚えていない。竹芝桟橋から夜に出発する船に乗った記憶があるので、東京の離島のどこか、だった。

 

三泊四日のサークルの合宿は、楽しかった。海水浴をしたり、女友達と一緒にお風呂に入ったり。馬鹿みたいに騒ぐ男子たちをゲラゲラ笑ったり、「Sくんのこと、好きなんだよね」とか、女子だけでひっそりと眠る前に行った告白大会なんかもあった。

 

二日目の夜には、肝だめしが開催された。

けれど、それはちゃんと下調べをされていたものだった。

 

普通に暮らしている人がいる町だったし、ギャーギャー騒いで迷惑をかけてはいけない。

ただ、まったく知らない町で、灯りはほとんどない暗い夜道。懐中電灯をひとつ持って歩くだけでも怖いものは、怖い。

 

先輩たちによって、入念に下調べされたルートを歩くだけれど、肝だめしが始まった。

簡単な手書きの地図が渡された。ルートを見ると、少し遠くの神社でお参りして、帰ってくるというものだった。

 風の吹かない夜で、じめじめと蒸し暑かった。

潮の香りが、妙に生臭く感じて、すこし気持ち悪い。

 

肝だめしは、くじ引きで男女ペアを決めて進んでいった。男子部員の数が多いサークルだったので、男女のペア、もしくは男二人、女一人の三人になるところもあった。

 

私は三人トリオのチームになって、暗闇を歩いていった。一緒に歩いているのは、ひとつ年上の先輩と、同じ学年の男子。二人とも、肝だめしなんて全然怖がっていなくて、むしろ「怖いはなし」をして私を怖がらせようとしていた。

 

道に迷うといけない、という配慮もあった。

「おばけ役」の友人が曲がり角からでてきて、驚ろかすついでに道を教えてくれたりもした。私たちは、順調に歩いていった。

 

手書きの地図は、コピーが少し不鮮明になっていて、見えづらい。

でも、この先に道が分かれている様子もないし、まっすぐ行けば、もう神社に着くだろうと三人とも肝だめしというよりは、夜の散歩気分だった。

 

だけど。

「もうそろそろ、神社に着いても良さそうだよね?」

「うん。神社って、昼間に前を通った、あそこでしょ? そんなに距離ないよね」

「道が暗いと、距離感って狂うのかもな」

そんなことを言いながらも、ずっとまっすぐに歩いていった。

道はだんだん細くなって、しまいにはアスファルトの舗装もなくなってしまった。

 

「......これ、本当に、道、あってますかね?」

私はだんだんと、不安になってきた。

泥がサンダルの中に入ってきて、ぐじゅぐじゅと気持ち悪かった。

 

「……うーん、でも、道、他になかったしなあ」

「もうちょっと進んでみようぜ」

 

三人とも、なんとなく違和感を抱えながらも、そろりそろり歩いて行った。

少し行くと、階段状になっている道が見えてきた。

 

その階段も、山道を切り開いてつくられていて、舗装されていなかった。

なんとなく、のぼるのが怖かったので、三人ともためらっていた。

けれど、先輩が「おれ、見てくるから下で待ってて」と、登っていった。

もう一人の男子も、「おれも行きますー」なんて、ちょっとだけ空元気な声をだしてついていこうとする。

 

けれど、懐中電灯は一つしかなくて、暗闇の中にポツンと取り残された私は、やっぱり怖くなって、「ひとりになるのも、嫌だ―!」と言いながら一番最後について行った。

 

先輩が階段を上り終えたとき、「あ、ここだめだ。すぐ降りよう」といった。

私も、もう少しでつくところだったし、歩みを止めるわけにもいかず一番上まで登っていった。

 

そこには、お墓があった。

見渡す限り、お墓が広がっていた。

懐中電灯で照らすには、限度があったけれど、墓石と少し倒れかけた卒塔婆が所狭しと並んでいた。

遠くの方に、お墓をお参りしているのか、それとも、べつの何かは分からないけれど、

空気がうごめく気配もあった。

 

一瞬にして全身に波打つように、寒気が走った。

 

私たちはとっさに「この場所に長くいちゃいけない」と判断して

慌てて階段をおりた。

土がボロボロと崩れてしまいそうだったので、駆け下りたかったけれど、それも危なくて、できるかぎり急いでおりた。

 

階段をおりたところからは、小走りだった。

三人とも、何も言わず、ただ、来た道をひたすら戻っていった。

舗装された道までたどり着いた時には、「ここまでくれば、大丈夫だろう」と、ホッとしたけれど、恐怖感が押し寄せる波のように、やってきて泣きそうだった。

 

 

お化け役の先輩たちが、探しに来てくれて、私たちはかなり長い時間、迷っていたようだった。

けれど、どの、お化け役の人たちも「すれ違ったし、道もちゃんと間違わずに進んでいた」と言っていた。

道に迷ったのも、私たち三人だけだったし、「お墓なんて、あったっけ?」と、下見に行っていた先輩達も不思議がっていた。

 

なぜ、あの場所にたどり着いたのかは分からない。

あのまま、墓場に進んでいたら、どうなっていたのかも分からない。

 

けれど、一つだけ言えることがある。

 

戻ってこられて、良かった。